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高知地方裁判所 昭和39年(レ)15号 判決

控訴人 国

訴訟代理人 村重慶一 外二名

被控訴人 新田健一

主文

本件控訴を棄却する。

訴訟費用(前控訴審、当控訴審とも)ならびに上告費用は全部控訴人の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

(本件売買の成否について)

成立に争のない甲第一号証の二、原審における証人藤村盛喜の証言によりその成立を是認できる甲第二号証の一、二、その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるので真正に成立したものと推定する甲第三号証の一、二、原審における証人黒田豊穂(第一、二回)、藤村盛喜、岡本政好の各証言によれば、

昭和二五年六月頃、被控訴人外一名の者が高知刑務所を訪れ、同刑務所作業課販売係勤務の訴外黒田豊穂に面会を求め、同人に対し刑務所製造の雑魚袋を買い受けたいが、取引はある会社名義でしたい旨申し入れたところ、黒田は被控訴人とはかねてから知り合いであるが、その会社名は聞いたことがないので被控訴人個人とならば取引に応じる旨答えたこと、その結果同月一九日被控訴人と高知刑務所との間に、高知刑務所は被控訴人に対し、その製造にかかる雑魚袋を、うち二万二、七三九枚は一枚一円五〇銭で合計三万四、一〇九円、うち七万三、七六二枚は一枚一円三〇銭で合計九万五、八九一円、以上合計一三万円で売り渡す旨の契約が成立し、高知刑務所は同日右約定枚数の雑魚袋を被控訴人に引き渡したこと、そこで、高知刑務所は被控訴人に対し同年九月五日、右代金の支払期日を同月一五日と定めてその旨の納入告知書を発行してその支払を求めたこと、しかるに被控訴人は、同年一二月四日に右代金のうち七万円の支払をなしたにすぎないこと、

を認めることができ、右の認定に反する原審における証人岡田義正、池田良久、被控訴本人の各供述部分は、前顕各証拠と対比するとたやすく信用できず、他に該認定を左右するに足りる証拠はない。

(被控訴人の時効の主張について)

一、本件売買代金債権と民法第一七三条の適用の有無

(一)  民法第一七三条は、日常頻繁に反覆して発生する性質の債権は、通常短期間に行使され、従つて短期間の不行使によつてその債権の不存在の社会秩序が形成され易いとともに、比較的速やかにその法律関係が不明瞭になりがちであるから、その法律関係を速やかに確定させる趣旨の規定であると解すべきであり、従つて、同条第一号の生産者とは日常頻繁に反覆して売却することを予定して貨物を産出することを業とする者をいい、必ずしも営利を主たる目的とする者であることを要しないものと解すべきである。

(二)  そして、高知刑務所において、紙、紙製品等を日常頻繁に反覆して生産し、これを売却していることは顕著な事実であり、その収入が国庫に帰属していることは監獄法第二七条第一項により明らかである。そうすると、高知刑務所は、本来行刑目的をもつて受刑者に作業を課しているものであるから一般の営業的生産者とは著しくその目的を異にするけれども、前段説示のところから民法第一七三条第一号にいう生産者にあたるものというべきである。

二、本件売買代金債権の時効消滅

以上によると、控訴人請求の本件売買代金債権は民法第一七三条により二年の短期消滅時効に罹るものというべきところ、前認定のように本件売買契約は昭和二五年六月一九日に成立したものであるから、その翌日の二〇日から起算して二年後の昭和二七年六月一九日の経過とともに本件売買代金債権は時効により消滅するものというべきである。なお、前認定の高知刑務所から被控訴人に対して昭和二五年九月五日になした同月一五日を支払期日と定める旨の納入告知書の発行は単なる支払請求であつて、これを以てその支払期日を定めたものということはできない。即ち、高知刑務所としては、右昭和二五年六月一九日以後は何時にても右代金の支払を請求し得る状態にあつたものである。

ところが、前認定のように、被控訴人は昭和二五年一二月四日に本件売買代金のうち七万円を弁済しているところ、右は時効中断事由たる債務の承認にあたるものというべきであるから、前段説示の消滅時効は右一部弁済により中断したものというべきである(なお、この点については、控訴人において特に中断事由としては主張していないが、かかる事実は他において主張、立証されているところである。)。

そこで、本件売買代金債権は、さらに右の中断事由の終了した時から進行を開始したものというべく、昭和二五年一二月五日から二年後の昭和二七年一二月四日の経過とともに時効によつて消滅したものというべきである。

よつて、本件売買代金債権は、右時効の起算日である昭和二五年一二月五日に遡つて消滅したものというべきである。

そうすると、控訴人の本訴請求中一三万円に対する昭和二五年九月一六日から同年一二月三日までの間の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は、以上の時効によつては消滅していないことになる。

そこで、被控訴人は右損害金債権もそのすべてについて履行期の到来した昭和二五年一二月四日から起算して三年を経過した昭和二八年一二月三日の経過とともに時効によつて消滅したと主張するが、右損害金債権は、その基本債権である本件売買代金債権に附随するものであるから、右基本債権の消滅時効期間と同一であるというべきであつて、二年の短期消滅時効に罹るものというべきであるから、昭和二七年一二月四日の経過とともに前認定の中断事由が存するので時効によつて消滅したものというべきである。

以上の次第で控訴人の本訴請求債権はすべて時効により消滅したものである。

(結論)

以上の次第であるから、控訴人の本訴請求は爾余の点について判断するまでもなく理由がないので失当として棄却すべきところ、これと結局において結論を同一にする原判決は相当で、控訴人の本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用は民訴法第八九条、第九六条により前控訴審、当控訴審および上告費用のすべてを控訴人の負担とし、主文のとおり判決する。

(裁判官 白石晴祺 下村幸雄 渡辺昭)

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